「予想もできなかったけれど、ロウランドのお嬢様が、これほど愛らしいかただったなんて。ねえ、ごらんなさいよ。ダーモットの高慢ちきの半分も驕《おご》っていらっしゃらないわ」
本当にそのとおりだった。伯爵の令嬢にどんな辛い点をつけようとする人でも、彼女に取り澄ましたところを見出すことはできないに違いない。、あどけないと形容《けいよう》したいほどのもので、かすかに色をさす肌、金茶の瞳、人形のように小さ
卓悅Biodermaな鼻と口をしていた。その物腰《ものごし》は、風にゆれる優しい花のようだ。
兄に手をとられ、ロウランドのアデイルはゆっくりと階段を下ってきた。小麦色の髪を今にもこわれそうなまげにまとめ、ダイヤの輝く繊細なティアラをのせている。はかなげな首筋、その喉《のど》の|窪《くぼ》みにも、ダイヤをつらねた細い首飾りがきらめいている。
だが、デイスの御令嬢たちのように、ガウンに縫いつけた宝石や毛皮は一切なかった。彼女のガウンはため息が出るような美しい淡紅色をしていたが、胸元の薔薇色のリボンのほかは、すべて無地で装飾もなかったのだ。彼女はまるで春の女神のように、清らかに、かぐわしく、霊感《れいかん》に満ちて見えた。
フィリエルは、この会場で最も自分のガウンに似たガウンが、伯爵令嬢のものであることに気づいて、奇妙な気分を味わった。もちろん、彼女のまとう布地はそら恐ろしいほど高価で、リボンの幅の分だけでも、軽くフィリエルのガウンに相当するのだろうが。
光に満ちた階段を下ってくるアデイル嬢を見て、フィリエルは、別世界へと生まれつく少女がいることを実感したのだった。そして、その手をとるユーシスもまた、自分にははるかに遠い人物だということを。
(なんてことだろう……あたしはあの人と、初めて
Yumei好用のダンスをしたのだ。何のお話もしなかったけれど、交わしたほほえみだけは、たしかにあたしのものだった……)
どうして胸が痛いのだろうと思いながら、フィリエルはそう考えた。
アデイル嬢が階段を下りきると同時に、人々が伯爵家の二人を取り囲んだ。その人垣《ひとがき》はみるみる幾重《いくえ 》にもふくれあがり、フィリエルたちからは完全に隔てられて、目にも映らなくなってしまった。その場にいたはとんど全員が、ロウランドの令嬢に紹介されたがっているようだった。
「しかたないわね、順番を待ちましょう」
マリエは言ったが、もしかすると、パーティがお開きになっても順番はこないかもしれなかった。それほどに群がる人々は多かった。
「ちょっと、ワレットの人たちの様子を見てきたほうがよさそうだわ。もう馬車を出すのかどうか」
深いため息をついて、マリエが言った。
「マールは酔っぱらうと、とたんに忘れっぽくなるのよ。置いていかれてはかなわないから、少しくらい姿を見せておかないと」
「あたしも行ったほうがいいかしら」
フィリエルが急いで言うと、マリエは首をふった。
「ここにいてくれたほうがいいわ。まだチャ
홍콩크루즈여행ンスが消えたわけではないのだから。もしも動きがあったら、知らせに来てね」
マリエが行ってしまい、一人になると、フィリエルはどっと疲れを感じた。だいたい、セラフィールドで日々をすごしている者にとっては、人の多さだけでまいるものだった。その上、慣れないものを着て、慣れない靴をはいて立っているのだ。
(おかみさんのいれる、コケモモ茶が飲みたいな……)